「なぜ同じメニューなのに、ある日は楽しく取り組めて、ある日は苦痛に感じるのか」——その答えのひとつが、ACTでいう心理的柔軟性にあります。
心理的柔軟性とは、「今この瞬間に完全に意識を向けながら、自分の価値に沿った行動を取る能力」のこと。これはACTの究極の目標であり、6つのプロセスによって構成されています。
ACTヘキサフレックスとは
ヘキサフレックスは、心理的柔軟性を構成する6つのプロセスを六角形で表したモデルです。それぞれが独立しつつも互いに影響し合っています。
Hayes SC, Strosahl KD, Wilson KG (2012). Acceptance and Commitment Therapy: The Process and Practice of Mindful Change (2nd edition). Guilford Press.
PubMed →トレーニングの文脈で、ひとつずつ見ていきましょう。
1. アクセプタンス(受容)
筋トレにおけるアクセプタンスとは、トレーニング中の不快感——筋肉の灼熱感、息切れ、「もう帰りたい」という気持ち——を排除しようとせず、その存在を認めることです。不快感は敵ではなく、トレーニングの自然な一部です。
トレーニングでの実践: セット中に「きつい」と感じたとき、その感覚を押し込めるのではなく、「今、きつさを感じている」とただ認める。
2. 認知的脱フュージョン
「自分には才能がない」「どうせ続かない」——こうした思考を事実として受け取らず、「頭の中に浮かんだ言葉」として観察する視点を持つことです。
トレーニングでの実践: 「今日はダメな日だ」という考えが浮かんだら、「『ダメな日だ』という思考が来たな」と気づく。
3. 今この瞬間への注意
トレーニングでの実践: 次のセットや残りの種目数を心配するのではなく、今行っているレップの動きに意識を向ける。バーの感触、筋肉の収縮、呼吸のリズム。
4. 文脈としての自己(自己観察)
「自分は運動音痴だ」「自分は怠け者だ」——こうした自己定義から距離を取り、「さまざまな思考や感情を経験している自分」という広い視点を持つことです。今日の自分がサボりたい気分でも、それは「自分の一部」であって「自分のすべて」ではありません。
トレーニングでの実践: 調子が悪い日に「自分はダメだ」と自己定義するのではなく、「今日は調子が良くないと感じている自分がいる」と観察する。
5. 価値の明確化
トレーニングでの実践: 「なぜトレーニングするのか」を定期的に振り返る。体重やベンチプレスの重量といった目標の裏にある、もっと大きな「方向性」に気づくこと。
6. コミットされた行動
トレーニングでの実践: 価値に基づいて具体的な行動を選び、実行する。そして、うまくいかなかったらまた選び直す。ウィリングネスの記事で書いた「やる気がなくても一歩を選ぶ」はまさにこれです。
6つのプロセスが連携する場面
たとえば、仕事で疲れた金曜の夜。ジムに行くか迷っている場面を考えてみましょう。
- 受容: 「疲れている」という感覚をそのまま認める
- 脱フュージョン: 「疲れているから行っても意味がない」という思考を、ただの思考として観察する
- 今この瞬間: 明日の予定や来週の計画ではなく、今この瞬間の選択に集中する
- 自己観察: 「怠け者の自分」ではなく、「疲労を感じている自分」として観察する
- 価値: 「健康でいたい」「身体を大切にしたい」という自分の価値を思い出す
- コミットされた行動: ウォームアップだけでもいいから、ジムに行くことを選ぶ
6つすべてを一度に意識する必要はありません。まずは自分にとってピンとくる1〜2つのプロセスから始めてみてください。多くの場合、1つのプロセスが変わると、他のプロセスにも自然と良い影響が波及します。
まとめ
- 心理的柔軟性は、ACTの6つのプロセスによって構成されています
- それぞれのプロセスはトレーニングの場面に直接応用できます
- 6つが連携することで、どんな状況でも価値に沿った行動を選べるようになります
- まずは1〜2つのプロセスから練習を始めてみてください
- 心理的柔軟性は筋肉と同じで、練習によって育てることができます
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