「今日は時間がないから、メニューを全部こなせない。だったら今日は休もう」——こういう経験、ありませんか?自分は何度もあります。「やるなら完璧に、できないなら休む」。この考え方、実はトレーニングの継続を最も阻む落とし穴の一つなんです。
今回は、完璧主義がトレーニングにどう影響するのか、そしてACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の視点からどう向き合うかを考えてみます。
完璧主義の罠 — 「全か無か」思考
完璧主義的なトレーニーによくあるパターンを挙げてみます。
- 「予定のメニューを全部こなせないなら、今日はやらない」
- 「食事で甘いものを食べてしまったから、今週はもうダメだ」
- 「フォームが完璧にできないなら、この種目はやるべきじゃない」
- 「ジムに1時間いられないなら、行く意味がない」
これが「全か無か(all-or-nothing)」思考です。100点か0点か、完璧か失敗か。中間がないんですよね。
研究でも、完璧主義的傾向が高い人ほど運動の継続率が低いことが示されています。
Shanmugam V, Jowett S, Meyer C (2013). Eating psychopathology amongst athletes: The importance of relationships with parents, coaches and teammates. International Journal of Sport and Exercise Psychology, 11(1), 24-36.
PubMed →完璧主義は一見すると「高い基準を持つ良いこと」に思えますが、トレーニングの文脈では「基準に達しないなら何もしない」という行動パターンにつながりやすいんです。
「70点のトレーニング」が積み重なる威力
ここで、シンプルな計算をしてみましょう。
- 完璧主義者Aさん: 週に1回、完璧な2時間のトレーニングをする(でも忙しい週は0回になる)
- 月間平均: 2〜3回
- 「まあまあ」主義者Bさん: 週に4回、30分のトレーニングをする(完璧じゃなくても行く)
- 月間平均: 16回
1年後、Bさんの方が圧倒的に多くのトレーニングボリュームを積んでいます。筋肥大の観点からも、トレーニング頻度とボリュームの積み重ねが結果を左右します。完璧な1日の100点より、まあまあの70点が20回ある方が、合計点ははるかに高い。
ACTで完璧主義と向き合う
「完璧でなければ」は思考であって事実ではない
「今日は全メニューこなせないなら意味がない」——この考えが浮かんだとき、少し立ち止まってみてください。それは事実ですか? それとも頭の中に浮かんだ思考ですか? 「『今日は全メニューこなせないと意味がない』という考えが浮かんでいるな」と言い換えてみてください。思考と自分の間にスペースが生まれて、その考えに従うかどうかを選べるようになります。
完璧主義的な思考は、「もっと良くなりたい」という健全な欲求から生まれることが多いです。その欲求自体は悪いものじゃありません。でも、その思考に支配されて行動が止まってしまうのは本末転倒です。
価値に立ち返る
完璧な1回のトレーニングをすることが目的ですか? それとも、長期的に健康で強い身体を作ることが目的ですか?
ほとんどの人にとっての価値は後者のはずです。ウィリングネスの考え方でも書いていますが、価値に向かう行動は必ずしも完璧である必要はありません。不完全でも、価値の方向に一歩を踏み出すことに意味があります。
「まあまあの継続」を支える実践テクニック
1. 最低ラインを決めておく
「やるかやらないか」で迷う状況を減らすために、最低ラインを事前に設定しておきましょう。
- 時間がない日 → スクワット3セットだけ
- 体調がイマイチな日 → ウォームアップ+メイン種目1つだけ
- 疲れている日 → ジムに行って5分だけ歩く
最低ラインは「これならどんな日でもできる」というレベルに設定するのがコツです。「スクワット1セット」でも「ジムの前まで行く」でもいい。ゼロとイチの差は、イチとヒャクの差よりもはるかに大きいんです。
2. 「完了」を再定義する
完璧主義者にとって、トレーニングの「完了」は全メニューをこなすことかもしれません。でも、「完了」の定義を変えてみましょう。
- 旧定義: 予定のメニューを100%こなすこと
- 新定義: 価値に向かって何かしらの行動をすること
この再定義だけで、「今日は3セットしかできなかった」が「今日も価値に向かって動いた」に変わります。
3. 結果ではなくプロセスを評価する
完璧主義は結果にこだわります。「何kg挙げたか」「何セットやったか」。でも、本当に評価すべきはプロセスです。
- 忙しい中でも時間を作ってジムに来た
- 体調が悪くても、できる範囲で動いた
- 「やめよう」という思考が浮かんだけど、それでも行動を選んだ
こういったプロセスを自分で認めることが、長期的な継続力を育てます。
4. 「失敗」をデータとして扱う
予定通りにいかなかった日を「失敗」と捉えるのではなく、データとして扱ってみてください。
- 「予定より少なかった → 次回のスケジュールを調整しよう」
- 「フォームが崩れた → 重量設定を見直そう」
- 「途中で帰った → そもそも体調が万全じゃなかった。休息が必要かも」
失敗は終わりじゃなくて、次の一手を考えるための材料です。
長期的に見た「まあまあ」の威力
筋トレの成果は、1回のセッションで決まるものではありません。数ヶ月、数年単位の積み重ねです。その長いスパンで考えたとき、「完璧を目指して休む日」が多いプログラムより、「不完全でも続けるプログラム」の方が確実に結果が出ます。
完璧なトレーニングをした1日より、まあまあのトレーニングを続けた100日の方が、あなたの身体を変える力を持っています。
これは「手を抜いていい」という話ではありません。できる日は全力でやればいい。でも、できない日にゼロにしないこと。「今日はこれだけ」でいい。その「これだけ」が、積み重なって大きな差になります。
まとめ
- 完璧主義は「全か無か」思考を生み、トレーニングの継続を妨げる大きな要因です
- 完璧な1回の100点より、まあまあの70点を積み重ねる方が長期的な成果は大きいです
- 「完璧でなければ意味がない」は思考であって事実ではない。脱フュージョンで思考と距離を取りましょう
- 最低ラインを設定し、「完了」の定義を価値に向かう行動をしたかどうかに変えましょう
- 結果ではなくプロセスを評価する習慣が、長期的な継続力を育てます
完璧じゃなくていい。今日の「まあまあ」が、明日の自分を作ります。
科学と行動科学で筋トレを続ける
Compass で、あなたの価値に向かうトレーニングを始めよう
